本読み記録006/夏に読む3冊-夏と少年とおじいさん-

中学入試頻出作家 椰月美智子さんの本をいくつかと思いながら書き始めたのですが、書き進めるうちに「夏」を思い出すものが思い浮かんだので3つほど並べてみました。

サブタイトルは「夏と少年とおじいさん」です。

どの本も季節は夏、そして少年(たち)がおじいさんと過ごす時間が丁寧に書かれています。今年は残念ながらこの本たちに出てくるような夏は訪れなそうだけれど、本格的な夏の前に読んで、季節が変わるのを楽しみに待ちたいなと思える本たちです。

椰月美智子『しずかな日々』

人生は劇的ではない。ぼくはこれからも生きていく。

第45回野間児童文芸賞、第23回坪田譲治文学賞をダブル受賞。中学入試では2016年あたりから毎年のように取り上げられています。取り上げられている個所も、冒頭の野球を始める場面、主人公とおじいさんとのやりとり、学校での出来事、など多岐にわたっているのは、どの場面も細やかな描写によってぐいぐい読み進められる文章だからかなと思います。

挿絵のない本だけれど、グラスの麦茶、スイカの種飛ばし、おじいさんの漬物(食べ物ばかり、、)日本の古き良き夏が鮮やかに描かれています。主人公のひと夏の「かけがえのない日々」が「しずか」に進んでいくのを、単行本ならではの行間、紙の厚み、余白の広さ、そんなものを味わいながら読み終えました。

良き友人との出会いはとてつもなく大きいですね。児童文学ではありますが、大人は自分の小学生時代を重ねながらノスタルジックな気持ちで楽しめます。

湯本香樹実『夏の庭』

いろんなことをさ、忘れちゃいたくないんだ。

夏、少年、おじいさんときたら思い出すのはこの本。1992年に書かれてからずっとずっと読み続けられている名作、映画化もされましたね。大人で読んだことがない方はお子さんに勧める前にぜひ手に取ってほしい1冊です。

「人って死んだらどうなるの?」死についてそんな素朴な興味を持った少年たちが、もうすぐ死んでしまいそうと噂されている一人暮らしのおじいさんを観察するところからはじまります。交流を通してすこしずつ変わっていく子どもたちとおじいさん、おじいさんの死によって彼らの夏休みはおわります。忘れたくない出来事との出会い、忘れてしまうことへの恐れ、、彼らはコスモスの花をみるたびにおじいさんのことを思い出すのかもしれません。

詳しく書きませんが、おじいさんが語る戦争の話はなかなかにリアル。身近に語り部がいなくなっている中、こうして本の中でも少しずつ語り継がれることは大事なことだなと思います。ちなみにわたしは映画はみていないのですが、映像だとまた夏の空気を視覚、聴覚から感じられて違った楽しみ方ができそうですね。

椰月美智子『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』

わたしはいつもここにいるからね。

『しずかな日々』の椰月さんの本をもう1冊。設定は『夏の庭』が重なりますね。椰月さんはこの時期の男の子のちょっとモヤモヤした気持ち、自分でやりくりできない気持ちの描写が上手です。

本の中に出てくるおじいさんの田中さんは神レベルでいい人で、ひねくれた要素のない展開なので、他の2冊よりも年齢が低くても読み切れるかなと思います。田中さんとの交流が深まるきっかけである戦争の話も、田中さんが少年たちに向けてしっかりと言葉で思いを伝えてくれていて受け止めやすくなっています。

章立てが細かくなっているのは毎日小学生新聞の連載だったからですね。途中じわりとくるところあり、知って欲しい時代背景ありと、さらりと読めるのに中身の濃い良書です。

 


 

本を読むことが直接国語の点数に結びつかないのは以前から申し上げている通りです。
無理に共感しなさいとも思わないし、好きなジャンルばかり読んでしまう時期もあると思います。それでも、本をいつでも手に取れる環境がまわりにあるかどうかで、その子にとっての大事な1冊に出会う確率が上がるのではないかと考えています。
レッスンで関わる子どもたちとは近い距離にいられるからこそ、それぞれにあったいい読書環境作りのお手伝いをさせていただいています。

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