朝日新聞EduA「語彙力で勝負する!」とつれづれ

先日、朝日新聞EduAに「語彙力で勝負する!」というテーマで取材を受けました。基本的に中学受験をベースに仕事をお引き受けしているのですが、幼児教育を専門にしている人×国語を教える人、ということでお声がけをいただきました。

ーうれしいときも悲しいときも「ヤバい」で済ませていませんか?
読解や表現の基礎となり、入試にも欠かせない語彙(ごい)力を
高める方法を年代別に考えます。ー

 

幼児期に語彙を鍛えることがその後どのように影響するか、わたしは学者ではないので数字的なエビデンスがあるわけではないけれど、、、それでもいろいろなご家庭を見てきた上でやはりこれは大切だ、と思ったことを言葉にしたというところです。

一生モノの語彙力を

正直、語彙の数がとびっきり多くなくてもコミュニケーションをとること自体に支障はない世の中です。「お母さん、おやつ」という言葉でも、お腹が空いていてなにかおやつが欲しいのね、ということくらいわかります。特に近しい関係の場合には、日本人固有の「あ・うん」の呼吸というところで、言わずともわかることもありますし、LINEのスタンプのやり取りで会話(というのかわかりませんが)終了ということもあるでしょう。

そしてやること満載の中学受験、どうしても国語の勉強、しかも時間のかかる語彙力の強化は疎かにされがちです。でも、本来語彙は、普段の生活の中で身構えることなく自然に習得していくもの。微妙なニュアンスが多い日本語は、たくさんの語彙の中から相手へ何かを伝えるための表現を選んだ方が正しく相手に伝わりやすいです。中学受験のためだけではない一生モノの語彙力を意識してご家庭にいつもお伝えしていることを2つほどご紹介します。

本での言葉のシャワー

今回の記事は「就学前に」というテーマではありましたが、小学生にも同じようにつながることは折に触れ伝えるようにしています。

例えば、幼児期には読み聞かせの時間をたくさん取って、良質な言葉のシャワーを浴びせてくださいとお話することがあります。小学生になると読み聞かせという形での言葉のシャワーは難しいかもしれませんが、良い読書環境という形で与えることができればよいのです。(読書量と読解力の因果関係はないと思っていますが、語彙力は別です)

中学受験に必要な語彙だから覚えるといって単語帳を使って詰め込む語彙と、読書で培った語彙は質が違います。前後の文脈からの類推や、物語文だったら登場人物の気持ちに寄り添いながら読むことで、生きた語彙として体に吸収されていきます。色々な本から、普段使わない言葉、聞いたことはあったけど向き合ったことのない言葉に触れ、じんわりと吸収していくのが理想的です。

うちの子は本を読まない、と落胆されるご家庭もあるかもしれませんが、塾の国語のテキストは良質な文章のオンパレードです。毎回でなくていいですから、ぜひご両親がテキストの文章を読んでみてください。そしてその文章についての会話を少しだけ。これだけでも子どもにとって読まされるだけの文章から向き合うべき文章へ変わるのではないかなと思います。

会話での言葉のシャワー

また、家庭の中で扱う言葉の数はどうでしょうか??

最近読んだ言語学の本の中で、家庭で話される会話の中で、語彙数の少ない世帯の子どもが聞く単語数は、1時間に「平均600語」、語彙数が多い世帯の子どもは1時間に「2,100語」というデータがありました。この差が積み重なれば、後の学習に影響が出ることも当然のように思います。2,100語がどのくらいの分量かというと1時間のうちのトータル15分程度の会話量とのこと。ひっきりなしにお喋りしなければならないわけではありません。

そしてその内容についての言及もありました。やり取りする言葉の中に含まれる指示命令以外の言葉、その「おまけの言葉」が脳に必要な栄養になる、と。

この本は3歳までの言語環境についてのものではありますが、どうしても期限付き、相対評価というようなシビアな中学受験の世界、ネガティブな言葉が浮かぶこともあると思います。そんなとき、少しだけ立ち止まって投げかける言葉選びをしていただきたいなと思います。

良い文章を書きたいと思うこと

これを書きながら、先日、仲良しの教え子(6年生の女の子)の読書感想文のフォローをした時のことを思い出しています。

元々文章を書くこと自体が好きな子だったので、特に心配はしていなかったのですが、ここをどうするか迷っている、、という軽い相談に、いくつか解決の選択肢を提示したところ、どうやら良い文章を書きたい欲が爆発、スイッチが入ったようです。わたし自身も小学生のころを思い起こせば読書感想文はぎりぎりに取り掛かるくせにこだわりたいタイプ。市の作文コンクールで最優秀賞をいただきましたが、清書は9月1日でした。。。そもそも取り掛かりが遅すぎでしたね。夏休み最後まで根気強く言葉選びに付き合ってくれた母を思い出しながらの今回のレッスンでした。

本を読んで心動いた場所に付箋を貼り、読む人に伝えたい言葉、使いたい言葉をメモしながら、もっといい言葉がないかな、と辞書引きをスタート。紙の辞書を使っていたのですが引くスピードが速い。辞書が仲良し、という感じ。こういう言葉選びをするときに類語辞典があるともっと楽しかったでしょうね。

引用表現をそのまま使うか、それとも自分の言葉に置き換えるか。冒頭の問いかけに対する答えをどこに持ってくるか。使ったことはないけれど聞いたことがある言葉、言い回しがちょっと大人っぽい言葉、、どれがしっくりくるかを試すために作文用紙を幾度となく声を出して読み返し、文章を入れ替えて構成を見直し、と止めなければ夜中まで夢中になって書きそうな勢いでした。

6年生の夏、塾の課題もやらなければいけない過去問も山積みだったはず。でも、良い文章、読ませる文章を書きたいというモチベーションで日本語、生きた語彙とがっつり向き合った時間は彼女に取って思い出の夏の一コマになったのではと思っています。
ちなみに素材にした本はわたしが彼女に贈った「むこう岸」。なんだか嬉しいです。今年出会った本の中でも印象的な1冊で、Blogでも取り上げましたので読んでみてくださいね。

本読み記録005/安田夏菜『向こう岸』(2020灘)

 

 

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